家の近くにカルディがあった。
“あった”とは言っても過去形のそれではない。
要するに、この“あった”は“最近、知った”という意味。
「へえ、こんな小洒落た店が我が街にもあったのか」というのが第一印象。
さっそく店内を覗いてみる。
思いの外、高くない。
コーヒーの試飲なんぞもやっておる。
働いているお姉さんも一見地味、もとい堅実そうな雰囲気なのだが、何故だかお洒落に見える。
一昔前の高級輸入食材屋の香りを漂わせながらも”2020年代、日本庶民の財布事情”に配慮した値段設定。そうした意味で今っぽい店と言って良いだろう。
さて、何買おう?
何が出るかな?おつまみの宝箱カルディ
酒飲みとしては当然、酒のアテを物色することになる。
まず目に飛び込んできたのが「粗挽きペッパーつるしベーコン」。私はブラックペッパーと山椒に目がない。だから当然の如く購入。
横に並んでいた生ハムもお手頃で良い。こちらは以前購入済み(すでに我が家の定番)なので、今回は反対隣りに鎮座する「ペッパーボロニアソーセージ」をチョイス。
あとは・・・やはりチーズは欠かせない。アルプスの少女ハイジが食べてそうな輸入物のチーズにするか? それとも何かに塗ることを想定してクリームチーズにするか? なんてことを考えながら引き続き店内を物色。
なに? 「いぶりがっこのタルタルソース」だと? “いぶりがっこ”と聞くとその語感から“学校”を連想してしまう私。それもヴィジュアル的には昭和30年代ぐらいの田舎の分校的なそれ。“いぶり学校”に何とも逆らい難いなんらかの力を感じ、こやつも購入決定。
そして見つけたのが「無塩クラッカー」。
「そうだ!クラッカーに乗っけてみよう!」
何だか初心に帰った感じ。
思い出は時空を超える
クラッカーのオードブルといえば・・・
そう、あれは確か・・・小学2年生からのおよそ10年間、我が家の隣には外人さんが住んでいた。もともとW大の高名な教授の広大なお屋敷で、その敷地の一部に、まだ“輸入住宅”なんて概念すらない(知られていなかっただけ?)70年代に海外風の住宅(芝生が立派なお庭付き)を建て、そこを外国人専用に貸し出していたのだ。ちなみにその一角に、大先生の愛人が住む小さなお屋敷もありましたとさ。まだ大学教授に夢のあった頃のお話(笑)
で、どんな外人さんが住んでいたかと言うと、最初はアルゼンチン大使館の職員一家(夫婦に息子2人)、続いておもちゃの輸入かなんかやっていたオーストラリア人一家(夫婦に娘2人)。そしてアメリカ人の若夫婦。で、最後はフランス人一家(夫婦に息子2人&通訳兼住み込みお手伝いの日本人。パスカルくん元気?)。
居住期間が長かったということもあるが、その中でも特にオーストラリア人一家とは親しくしていた。夏休み休暇中、彼らが母国へ帰る際には鍵を預かって金魚の餌やりなんかやっていたっけ(何故だか知らないが、近所に数多いる子供たちの中でも特に僕が信用されていた)。ちょっと頭の薄いお父さん(とはいっても当時20代後半)のピーターにはよくキャッチボールの相手をしてもらっていたっけ。お母さんのエイリーンもとても良い人。僕より少し年下のお嬢さん、ビアンカとその妹のシビーちゃん。初代ベビーシッターのまりこさんには英語を習っていたし、2代目ベビーシッター、水沢アキ似のチャーミングなお姉さん(なかなか話の分かる、当時の言葉で言えばナウい姉ちゃん)とはポップな会話を楽しんだ。家族ぐるみで仲が良かった。
で、この一家、12月になるとクリスマス・ホームパーティーを開くのだ。子供たちはサンタの格好をしたおじさんの膝の上に乗せられ、何かを話させられたような・・・そんな記憶がある。将来の夢とかそんな感じだったかなあ? ちょっと覚えてないや。で、お客も近所の人以外はみんな外人さん。これがまたなかなかの異国感なのだ。
で、このパーティーの定番がローストビーフの塊(切り分けるタイプ)。そしてリッツにいろいろな具材が乗ったオードブル・・・流石にキャビアではないと思うが、見たところそんな感じのものとか。要するに、雑誌か何かで“外国のパーティー”などと紹介される写真によくあるまさにそのまんまの世界。今思うと、小学生の頃からそうした空気に接する機会を与えてもらったことには感謝である。
ピンクレディーが大好きだった美少女ビアンカも今は結構なおばさんだろう・・・オーストラリア(確かシドニーの人だったと思う)ですごい太ってたりしてね。みんな元気にしてるかなあ? いつかまた逢いたいなあ。
まあ、それは兎も角、数十年経った今でもクラッカーに具材を乗せた途端、こうした光景、いわば擬似異国体験、ないしはオーストラリア・サテライト体験とでもいったようなものが昨日のことのように思い起こされるのだ。
だからカルディの無塩クラッカーに粗挽きペッパーつるしベーコンなんぞを乗せた日にゃ、そりゃもう、時間と空間を一気に超越してしまうのだ。だから、そうした時間旅行の興奮をワインで流し込むのが私のカルディ呑みの極意という訳。
さて、話を2024年に戻して・・・
無塩クラッカーに乗せる具材としては、個人的には粗挽きペッパーつるしベーコンが特にお気に入り。大量の粗挽きペッパーには抗えません。もはや私はあなた(ペッパー)の僕(しもべ)です。という訳で、ペッパーボロニアソーセージは残念ながら次点となります。ちなみに私の審査基準は・・・要するにペッパーの量ですな。そしてまた、多量のペッパーに戦いを挑むかのようなベーコンの塩分は、まるで『巨人の星』の世界。恐るべき克己心で大リーグボールを生み出した星飛雄馬と打倒大リーグボールに燃える花形満を連想させるのです。昭和なのですよ! それに比べるとペッパーボロニアソーセージは平成以降に生まれた現代っ子の如く些かスマート過ぎた。とは言え、普通に美味しいですよ。一応、ペッパーボロニアソーセージの名誉の為に。
あっ!そうそう、今回、写真の方では取り上げておりませんが、無塩クラッカーに定番の生ハム乗せの美味加減は言うまでもありません。“さらなる上を目指す”を座右の銘とする(いつから?)私としては、これはもう生ハムの下にクリームチーズを塗るなどという贅沢も許されて然るべきだろう。という訳で、先ほど一旦棚上げしていたチーズの選択は「クリームチーズPrimar(プリマール)」に軍配が上がったのでした。
とは言え、あのショートケーキの如き三角形のフォルムがなんとも魅惑的な白カビチーズを選択しても間違いなし! ですから、お財布に余裕がある時には白カビチーズもオススメ。実は前回、白カビチーズは生ハムとのコンビネーションですでにお試し済み。もちろん、間違いのないお味であったことをここに記しておきたいと思います。むしろ“贅沢な味わい”という意味では、こちらに軍配が上がるといっても良い。
正直申しますと、今回は「別パターン(お財布にも優しいし!)も試してみよう!」ということでクリームチーズにしたという経緯もあったりして。ただね、このクリームチーズもなかなかのお気に入りで、この後(撮影後)、追加で購入したぐらいです。今では我が家の冷蔵庫の定番と化しています。ちなみに明太子味も試してみましたが、個人的にはプレーンが好みでした。まあ、こればかりはそれぞれの趣味も関係するところでしょうから、ご自身の舌でお確かめください。
とかなんとか、今回は生ハムを購入していないのにも拘らず、生ハムとチーズのコンビネーション具合なんぞについて長々と語ってしまいましたが、肝心の“今回のお話”という括りで言えば、単に無塩クラッカーの上にクリームチーズを乗せただけの状態でいただきましたとさ。ただねえ、これがまたなかなかシンプルで良いのですよ。箸休め的とでも申しましょうか? 肉系“こってり”の傍でひっそり佇む一輪の花とでも申しましょうか? 決して派手な味ではないのだが、だからこその魅力あり。
かつて、どこぞの球団が各球団の4番打者ばかりを集めていた時期がありましたが、上から下まで4番打者といったような、まあ、ある意味、そうした最強打線を持ってしても必ずしもチームが“強くなった”という訳でもなかったように・・・要は適材適所、餅は餅屋ということですな。そういった意味で、あえてのシンプルさを求めるならば、ある種、情報量が豊富な白カビチーズよりも、却って何の変哲もないクリームチーズに分があると言えなくもありません。要は、走って守るチームにしたいのか? 打線の破壊力を誇るチームにしたいのか? 野球のスタイルにも色々とありますが、呑みのスタイルも千差万別、勝手にしやがれ! まあ、そんなところでしょうか。
ちなみに、いぶりがっこタルタルソースを乗せた無塩クラッカーってのもなかなか美味でしたよ。これは万能。白いご飯にかけても美味しいし。トーストにも良し。まあ、お試しあれ。
そうそう、ワインについても少々。
今回、数本の赤ワインでマリアージュしてみましたが、「生詰め勝沼」は、この手のオードブルと合わせるにはちょっと酸味が強すぎたかなあと。で、長野県産無添加赤ワインの「信州コンコード」はアルコール仕様の葡萄ジュースといった趣。葡萄感たっぷり!「ワインの苦味が苦手!」という方にはオススメです。逆に「甘すぎる!」という方には我が家の定番「Médoc(メドック)」も悪くなかったですよ。まあ、具材に何を乗っけるのか?によるところも大きいかとは思いますが、少なくとも粗挽きペッパーつるしベーコンに関してはメドックで宜しいかと。個人的には今後もそうなる機会が多いと思われます。何故ならば、基本、我が家にはメドックがある筈だから。理由はそれだけ(笑)でね、今回の悟りとしては、細やかなツマミを前提とした家呑みレベルでのマリアージュは“値段じゃない”なと。少なくとも千円台のワインと2~3千円台のワイン前提ならね。
まあ、どんなワインが合うのか?を色々試してみるのも一興かと思います。“おうち酒場化計画”の意味するところは“結果”ではなく“過程”。その醍醐味は“再現”にあるのではなく、“実験”そのものにあるのですよ。未来からやってくる新しい世界に思いを馳せることこそ、その本質と見た!
さあ、明日は何を呑もう? えへへっ!
KALDI
本日ご紹介したお酒のお供は『KALDI(カルディ)』にて購入可能。季節や時期によって取り扱い商品が変わる可能性がありますので、店舗でチェックしてみてください。
関口 純/音楽家&劇作・演出家
大衆社会という名の戦場で、その“住処”を鉄壁の要塞と化すことに情熱を注ぎ、かつ、“一人呑み”という名の作戦会議において“食”という名の世界地図を広げることを以ってして戦士の休息とする文士、またある時はミューズの女神に色目をつかいながらもバッカスの宮殿で音楽を奏でる宮廷楽士を下野して地上に舞い降りた吟遊詩人。
芸術を生業とする一家に生まれ、幼少よりピアノ、作曲、演出などを学ぶ。その後、日本テレビ音楽(株)顧問(サウンドプロデューサー&事業開発アドヴァイザー兼任)、楽劇座芸術監督、法政大学地域創造システム研究所特任研究員など。音楽から演劇、果ては研究活動に至るまで「止まれば死ぬ」を人生のコンセプトに“常に”吟遊詩人的人生の真っ最中。
※本文中の価格は希望小売価格・税込みです。
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