楽劇座『ルーシー・フラワーズ』シリーズにおいて、見どころの一つである衣装。
ここでは一人一人に注目して、衣装の魅力を解説していこうと思います。
第7回となる今回は、シニカルかつコミカルに我が道を行くピンクの髪の女の子、ルー(演:五條なつき)さんです!
楽劇座ヒロインのワードローブ
八の字眉幸子さんからスタートした衣装解説もいよいよ最後のレギュラーキャラクター、ルーさんのターンがやって参りました。『ルーシー・フラワーズ』の『ルー』の部分を担うルーさんは、シリーズの「顔」と言っても過言ではありません。
演じる五條なつきさんは、他の楽劇座作品でも数多くのヒロインを演じていらっしゃいます。
フワモコパステルオーガンジーでスウィートポップなマカロンちゃん(from『マカロンちゃんの憂鬱』シリーズ)。
モノトーンなのにビビッドなマスキュリンテイストのシャルロット(from『エッフェル塔は今日も3.5度傾いている』)。
THE レトロ児童な吊りスカート(ジャンパースカートではなくあえてこう言いたい)の有栖川ちび子(from『有栖川家の密やかな楽しみ』等)。などなど……。
役柄もさることながら、彼女たちの衣装もまたバリエーション富かでハイセンスなものばかり! そしてもちろんそれはルーも同様! ……なのですが。
しかしながらその中にあってこのルーの衣装、個人的にはすごく『異色』なんです。
ルーの衣装は、少なくとも僕ならば「まず初手ではやらないであろう事」を、実にさりげな~く「え? 当然ですけど? 」みたいな顔してやってのけているんです。
それが何だか、おわかりでしょうか?
あえての色づかい? 異色な同色
それは、色のチョイスです。
赤い。
赤いんです!
いや、赤いこと自体はいいんですよ、僕も赤大好きです。でもここでちょっと、この作品の舞台装置を見てみて下さい。
写真を見るとおわかり頂けると思いますが、この『ルーシー・フラワーズ』シリーズでは舞台装置となる「ルーシーのおうちの壁紙」も赤いのです。
「衣装を考えるときは他の衣装とのバランスを意識する」とアリスママの時にお話しましたが、それは舞台装置などの背景にも同じことが言えます。ルーの衣装は全身の中で赤い色の占める割合が多いのでバランスが難しいはずなのです。
もちろん絶対に使っちゃいけないということはありません。他の判断要素や演出的な効果も含めて総合的に検討し、その上で背景と同じ色を使うことは当然あります。
とはいえルーは主役の一人。しかも大抵は青い服と髪のシーが隣にいます。赤い背景に赤い人物と青い人物を置くと、どうしても青い人物が目立ち、逆に赤い人物は背景になじんで印象が薄くなってしまいます。
それでも今となっては他には考えられないほど、ルーのスタイルはそのキャラクターにマッチした衣装です。
なにより実際に舞台をご覧になった方で「ルーの存在感が薄い」なんて言う方はお目にかかったことがありません。
ちなみに僕の友人は初めてルーシー・フラワーズを観たとき、ルーの事を「エサを前に狂暴化した飢えた雛鳥のような子」と形容していました。(注:あくまで僕の知り合いが個人の感想として言ったことです)
何故ルーさんは背景と同系色の衣装にも関わらずしっかりとした存在感を持っているのか? それはむろん、ルー役の五條なつきさんが素敵に演じられた結果です。(注:飢えた雛鳥の形容はあくまで僕の知人が言ったことです)
……が、それは大前提として、ここでは衣装の効果に注目してみたいと思います。
秘密はキラめく金ボタン
ずばり言います! ポイントはカーディガンのボタン!
明るいゴールドのボタンなので、動きに合わせてちょっとだけ「キラッ」とするんです。
舞台では強い照明が当たるので、あまりにも光を反射する小道具やアクセサリーは避けられることもあります。客席のお客様が「うおっ! 眩し! 」と感じてしまったら困りますもんね。
でも適度に「キラッ」とするアイテムは、体の動きや立体感の印象、場合によっては存在感そのものを補強してくれるのです。
たとえば体の動きですべてを表現するダンスなどの衣装。ストーンやスパンコールやビーズが沢山ついています。あとはクラシック奏者の衣装なども、一見シンプルな無地の布に見えてギラギラのラメ素材が使われていたり。
「光るもの」「揺れるもの」はそれだけ観る人の意識を惹きつけやすいので、ステージ用の装いではそういった工夫がされているんですね。
演劇の衣装がそれらと違うのは、必ずしも「最初からステージ衣装として作られた服」ばかりではないこと。そんな時に、アクセサリーやボタンなどちょっとした「キラッ」を演出してくれるアイテムがビーズやラメと同じ役割を果たしてくれるんですね。
キラめきを その身に乗せて
このボタンは、明るいゴールドでやや小さめサイズ。平均的なカーディガンと比べてボタンの数が多く、狭い間隔で配置されています。
正面だけでなくカフス(袖口)ボタンがついている点も特徴ですね。カフスは飾りボタンではなく実際に開閉できるので、袖口がスリットのようにちょっとヒラヒラしています。
なので上半身、特に手の動きがとても目立つんです!
テーブルの向こうに座って上半身を乗り出して手紙を読んだり、両手を広げてコンフィテュールについて熱く語ったり(なにそれ)、突然キュビズム絵画みたいになってしまったり(なにそれ)、そんなルーにはお誂え向きですね!
こうして見ると、まさにルーさんのためにあるかのように思えてくるこのカーディガンですが、当然それ以外のアイテムもルーさんにぴったりなものばかりです。
シーとお揃いに見えて、はっきり個性が出ているのはシー編でみなさん既にご存じの通り。
次回後編もご期待ください!
後編をCHECK
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執筆:大向しんじ
(c)Rrose Sélavy