楽劇座『ルーシー・フラワーズ』シリーズにおいて、見どころの一つである衣装。
これまでは一人一人に注目して衣装の魅力を紹介してきましたが、今回は番外編として少し切り口を変えた解説をしてみたいと思います。
今回のテーマは、ルー(演:五條なつき)とシー(演:齋藤蓉子)の『おそろい感の比較』です!
前回の記事をCHECK
【衣装解説】『ルーシー・フラワーズ』のワードローブ <第8回 ルー>②
続きを見る
『おそろい "感" 』ってなに?
ルーさん(赤い方)とシーさん(青い方)の衣装はパッと見て「おそろいの2人」とわかるスタイルになっています。このページのトップ画像で2人の衣装が並んでいるのを見てもわかりますね。
けれどそれぞれの衣装解説で紹介した通り、実は2人の衣装に同一のアイテムはありません。なので解説ではあえて『おそろい』ではなく『おそろい"感"』というワードを使ってきました。
ニュアンス頼りのファジーな言葉だと我ながら思うのですが、ここまで特につっこまれなかったので「よかった……」と勝手に胸を撫で下ろしています。
さて、ルーとシーの『おそろい感』の面白さは「異なるアイテムでペアに見えること」もですが、それ以上に「違う部分に個性が出ること」にあります。
衣装解説では個別の紹介でしたが、今回は2人を見比べながらルー&シーの衣装を徹底比較していきましょう!
徹底比較! ~えりもと~
首元からのぞくブラウスの襟は、2人の個性を見るうえで非常にわかりやすい部分です。「おそろい感の肝はここにあり! 」と言っても過言ではありません。
ルーさんは平たい幅広のつけ襟(実はブラウスではありません)。イートンカラーと呼ばれる形です。ハリのあるドレスシャツ系の生地、飾りや柄がなく、輪郭がはっきりしています。
シーさんは細幅の襟にチュールレースがふわっと広がった襟。くったりと柔らかいナチュラルな素材感のブラウスです。襟にはピンクやオレンジのお花が刺繍され、レースの刺繍も花柄です。
ルーさんの襟は装飾が無いぶん幅広ではっきりとした印象を出しているのに加え、無地ブラックのリボンタイを添えてポイントにしています。シーさんの襟の方が装飾が多いのですが、ナチュラルな風合いなのでひとつひとつはあくまで控えめな印象です。
ルーさんの襟周りは目を引くコントラストを持ったアクセントになるデザイン、シーさんの襟は情報量や奥行きを出しつつさりげなく調和するデザインなんですね。
これって劇中の2人のキャラクターにもぴったりじゃありませんか?
またルーさんは幅の広い襟、シーさんは幅の細い襟と、実際は大きさに差があるのですが、シーさんは襟のレースがちょうどルーさんの襟と同じくらい広がっているので「ぱっと見は同じくらいのサイズ」の印象になります。
ルーとシーの襟は2人の異なるキャラクターをデザインとして表現し、同時にほぼ同じエリアにまとめることで『おそろい感』の一部に落とし込んでいるのです。何気に離れ業だと思います。
現代のフォーマルスーツも襟の形だけで沢山ありますが、そのくらい襟は小さな違いで印象を変えられるパーツなんです。顔のすぐ下にあるので顔パーツとの相性も表れやすいですし、顔を見たら必ず目に入りますし。言わば絵画における額縁の様なパーツなんですね。
徹底比較! ~カーディガン~
続いてカーディガンも見ていきましょう。発色のいい赤と青はとても目立つので、2人の衣装でも特に印象に残りやすいアイテムです。また胴体の大部分をカバーしているので、全体の印象を繋ぎ合わせるまとめ役的な存在でもあるんです。
ほぼジャストサイズでウエスト丈といった点は共通ですが、やはり細部は異なります。特にわかりやすいのはボタンです。
例えばボタンの配置を見ると、シーさんはごくスタンダードな配列ですが、ルーさんは小さいボタンが狭い間隔で並んでいてデザイン性の高いものになっています。
他にも素材面では、ルーさんはツヤのあるゴールド系のボタン、シーさんはシェル(貝)素材風のボタンです。
パールやコハクなど生物由来の鉱物は「生体鉱物(バイオミネラル)」と呼ばれますが、シェルもそのひとつ。「自然」「カジュアル(寄り)」「繊細」などの印象を与えやすいです。その風合いを取り入れることでシーさんのカーディガンはごくナチュラルに全体の印象をまとめています。
一方でルーさんはたくさん並んだ小さな金ボタン。インテリアなどでもそうですが、木やプラスチックと比べて金のパーツは「高級」「フォーマル(寄り)」「華やか」などの印象を与えやすいです。リボンタイなど他との組み合わせも相まって、カーディガンでありつつジャケットのような、ややかっちりした印象があります。
徹底比較! ~ボトムス~
続いてボトムス。ルーさんはレースペチコート付きのミニプリーツスカート。シーさんはフレアのワイドサロペットパンツです。ここでもルーさんはややアカデミックでフォーマル寄りのスタイル、シーさんはナチュラルでリラックスしたスタイルですね。
ボトムスは2人の衣装の中でも明確に異なる部分です。強いて共通点を挙げるとしたら「情報量が多めの柄布」といったところでしょうか。
その柄の傾向も、写実的でリアルな画風(ルー)と筆跡が見えるラフなタッチ(シー)、花束やジュエリーなど人の手が介された物(ルー)と一面を埋め尽くす花々(シー)など、それぞれの個性が感じられます。
ルーとシーの比較まとめ
改めて2人の衣装を並べてその印象をまとめると、こんな感じです。
フォーマルとリラックス、アカデミックとナチュラル、くっきりとふんわり、マニッシュとフェミニン、といったように、2人の衣装には対になる特徴が細部に表れているのです。
思った以上に違いがあって意外に思われた方もいるのではないでしょうか。
コーディネートは全体で印象が作られるのでパーツごとに見たものが全体のイメージと同じになるとは限りません。それを逆手にとって、パーツ単位でしっかりと個性を出しながらも、全体ではおそろいっぽく見せることができるのは、ちょっとした発見ですよね。これこそがルーさんとシーさんの『おそろい "感" 』なのです!
僕も今回改めてお2人の衣装を観察しましたが、カジュアルorフォーマルの度合いにまで差があったのには驚きました。言わばファッションのジャンルなんか関係なしにおそろい感が生まれているんですからね。
さて、この『おそろい感』なんですけどね……。もしも自在に取り入れられるコツとかあったら、何かと便利だと思いません……?
衣装を考えるときとか、イラストを描くときとか、双子コーデがしたい時とか、はたまた逆転の発想で「お気に入りの服がセンパイと被ったけどお揃いになるのは回避したい……!」なんてときとか……。
ここだけの話なんですがね……僕は見つけてしまったのです。『おそろい感のつくりかた』を……!
2人の衣装を並べて観察しているうちに「同一アイテムじゃないのにおそろいっぽく見えるためのルール」を見つけたのです。
その秘密は一体何なのか。続きは次回! ご期待ください!
続きをCHECK
【衣装解説】『ルーシー・フラワーズ』のワードローブ <番外編 おそろい感のある衣装・双子コーデのつくり方>
続きを見る
関連特集
2022オンライン公演「ルーシー・フラワーズは風に乗り、まだ見ぬ世界の扉を開けた」フェスティバル特集
続きを見る
執筆:大向しんじ
(c)Rrose Sélavy