最近、"選択肢"について考える機会が多い。
”選択肢”は多い方が良いのか否か?
これがなかなか難しい問題なのだ。
スタジオで作業なんかしていると「どの機材の電源入れよう?」から始まり、「どのシンセサイザーを使おう?」etc.
経験から言って、全ての機材の電源を入れたところで、その殆どは触ることさえなく終わる。昨今、電気代が無闇矢鱈に高騰する中、そんな無駄に一銭たりとも払いたくないのが人情というもの。
じゃあ、「予め、使うものだけに電源を入れておけば良いではないか?」となるのだが、そうなると「やっぱりBassと言えばminimoog!」といった様なステレオタイプな使い方に終始してしまう可能性が高く、そうなると”心ゆくまで自分の音を模索する"といったプライベートスタジオ本来の姿=意味まで失われてしまいかねない。
Prophet-5を1台と、マルチエフェクター2台、4トラックカセットMTRで多重録音(しかも手弾き)していた頃の方が、機材の充実した現在よりも、よっぽど理想的だった様な気すらしてきてしまう・・・もちろん、それはノスタルジーないしは幻想に過ぎず、実際、それでは流石に不便。
難しいねぇ。
果たして、”庶民感覚”と”創造”、ないしは”市井の生活感覚”と”自由な精神”は両立するのであろうか?
そこで理想のシステム(食材)を考えてみた。
Prophet-5が1台、リズムマシンTR-808が1台、24〜32トラックのMTR、MTRに見合ったミキサー、エフェクター数台。もちろんシーケンサー(もちろんMac&シーケンスソフト・・・些か古い言い方だが・・・で可)なんかもあると嬉しい。
少なくとも、自分にとっては”必要最低限”にして”最大限の創造性”を発揮するには充分なシステムの様な気がする。
まあ、これが「もう少しリアルなドラムの音が欲しいから」とか「リアルなドラムの音にはprophetだけじゃ・・・」てな具合に、気が付けばいつの間にか膨大な機材に囲まれ、「そういえば、最近これ音出してないなぁ。あっ! これも・・・」とかいった状態になっているという・・・
まあ、そもそも仕事なんかの場合だと、自分の好みの音だけ使って"それで良し"とはいかない訳で・・・だから、却って好きなシンセサイザーを使う機会があまりなかったりするなんてことも・・・
こうしたストレスを無くす為には、"自分の為の音楽"を創るという基本の基に戻るしかないなと。
まあ、こう書くと至って単純な話なのだが、実際、仕事をしながらだと、こうした”自分の為の創造に費やす時間”を確保するのは思いのほか難しかったりもするのです。物理的な時間もそうだが、特に仕事で音楽をやっている人(音楽を例としたから”音楽をやっている人”なだけで、演劇なんかの場合も似たり寄ったり)なんかだと、"仕事の音楽"だけで”お腹いっぱい”ならぬ”耳がいっぱい”になってしまい、なかなかその他の時間をやり繰りしてまで”自分の為の音楽"を創る気力が残っていなかったり・・・
こうなると、自分とのズレを維持したままの”悪循環”という名のループ状態。
ありがちです。特に理想が高いと。少なくとも”完璧主義”は現代のサイクルに合わない様な気がします。
洋服なんかもそうですね。多過ぎるのも如何なものか?
うちの曾祖父さんという人は、若い頃に軍人で、その後、語学教師になった人なのだが、亡くなる直前(1958年)まで軍から支給された皮の鞄を使っていた様です・・・以前、アメ横の軍物ショップで星型の刻印が押された同デザインの鞄(日本軍ものの復刻)を見たことがあります。この鞄の中から早稲田大学の給料明細が出てきたりなんかして(笑)
こういうの良いなと思います。お気に入りのものを一つだけ。ダメになったら直す、ないしは新しいものを購入する。
私も20年ぐらい前、それまで着ていた全ての服を捨て、ヨウジヤマモトで購入した3着のジャケット、3〜4枚のシャツ、2本のベルト、1つの鞄だけを丁寧に着まわしていた時期がありましたが、結構理想的だった様に思います。
まあ、それから恐ろしく増えてしまいましたが・・・ちなみに上記のジャケット等々、痛んできたらお直しに出したりなんかして、20年近く経った今でもまだまだ現役で着ています。
この時、ヨウジヤマモト青山店で購入したバッグは今でもお気に入りです。
最後の1点を購入したものだったのですが、新品にも関わらず蓋部分に大きく目立つ折り目が付いてしまっていたのです。お店の人に尋ねると「これは直らないかも」ということでしたが、閉店ギリギリまで悩んだ末に購入。家に帰り、ミンクオイルかなんかで丁寧にメンテナンス。来る日もくる日も繰り返し・・・しばらくすると折り目もすっかり取れて良い感じの色&艶に。
度々浮気しますが、結局このバッグに戻ってくるという・・・
破けさえしなければ、死ぬまで使うと思います。
ただ、最近はノートパソコンなんかを持ち歩くこともあるので、流石にこのバッグだけでは難しい。
だから、バッグだったら用途によって3〜4つぐらいはあってもよいのではないでしょうか?
まあ、私の場合、それ×3倍ぐらいの結構な量が・・・
まあ、選択に悩むほど所有するのは如何なものかと・・・自戒の念も込めて。
ただ、生活環境や創作環境によっても必要なものは変化しますしねえ。「若い頃は家族も多く、来訪者も多かったので広い家が必要だったけれども、年老いた夫婦2人の生活となれば2部屋もあれば充分」みたいな話をよく耳にしますよねえ? ライフサイクルに応じて”必要なもの”も変化するのです。
とは言え、”選択肢は多ければ多いほど良い”という考え方があるのもこれまた事実。
要するに、一番大切なのは ”選ぶ目”と”心の余裕”かも知れません。
あとは身の丈!
執筆・撮影:関口純
(c)Rrose Sélavy