【ものづくりの教科書】<衣装の創り方>では、楽劇座(がくげきざ)のテクノPOPミュージカル『ルーシー・フラワーズは風に乗り、まだ見ぬ世界の扉を開けた』(以下、ルーシー・フラワーズ)の創作過程を通して、衣装がどのようにして創られているのかの裏側をご紹介していきます。
記事を執筆するのは、アリスママ役を演じた大向しんじ。華やかな衣装が出来上がるまで、いったいどんな過程があったのでしょうか?
第2回は「衣装の打ち合わせ<その2>」をお届けします。
第1回はこちら
【衣装の創り方/第1回】役のイメージ、どうする?衣装の打ち合わせ<その1>
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候補 ~これで決定?~
手持ちのお洋服の中で、アリスママのイメージに馴染む物……それは以前、別の公演で衣装にしていたロリータ系のワンピースです。
メインカラーはブルー~ネイビーで、白レース。トランプモチーフの柄入りでアリスのイメージにもピッタリ。また、首回り~胸がやや開いているので、装飾など改造を加えつつメイクや髪型を工夫すれば大人っぽくアレンジもできるのでは。
『メルヘン&エレガント&大人っぽい(ママ感)』、そんなアリス。……うん! いける! いけるわアリスママ!
……。
……さて、ここで「あれ? 」と思った方。
あなたさては僕が以前書いた『衣装解説・ルーシーフラワーズのワードローブ ~アリスママ編~』を読んで下さった方ですね。どうもありがとうございます。
参考【衣装解説】『ルーシー・フラワーズ』のワードローブ <第3回 アリスママ>①
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結論を言うと、いけませんでしたアリスママ。
アリスママの衣装はこのワンピースにはなりません。その判断が下されるのはこの次の打合せ。
判決 ~それはアリスの裁判のごとく~
打合せはリモートで自宅から行います。通話中に試着するのは時間が勿体ないので、あらかじめワンピを着た状態でカメラ前に待機する僕。通話が繋がり、打ち合わせに入ります。
まずは現在のイメージを共有し、問題なさそうな事を確認できたところで「このワンピースをベースにしようかと思うのですが、どうでしょう? 」と提案します。
すると、純さんは神妙な顔で衝撃の発言をなさいました。
「なんか、普通だね」
普通。
なんて残酷な響き……!
それがあったらどれほど生きるのがイージ―かと求め焦がれている時には決して手に入らず、完全に意識の外にある時に限って突然目の前に突き付けられる謎の概念。
てか、ロリータワンピを着て「どうでしょう? (まばたき2回)」と感想を求めた結果の反応が「普通だね」という点でもいろいろ複雑です。そんな僕の心情を知ってか知らずか純さんは続けます。
「イメージの方向性はともかく。そのワンピースだとアリスママに欲しいものが出ないね。シンディ君なんか日常のちょっとしたパーティーに普通に着て来そうに見える」
……そんな事言われても。俺の日常にあるパーティなんてマリオくらいですよ!! (1人プレイ)
「たぶん色も一因だね。その背景イメージにそのワンピースの青だと暗すぎるんだ。映えが大事だね。インパクトも欲しい」
なんということでしょう、奇しくも最初の打ち合わせ前に妄想した脳内の純さんが仰ったことと同じことを言われてしまいました。純さんはそんなこと言わないって言ったじゃない……!
……打ちひしがれている暇はありません。イメージの共有・確認と、その後の十分なヒントは頂いたのです。あとはいかにしてこの『日常のちょっとしたパーティに出席するシンディさん』を『アリスママ』にしていくのか。
次回に続きます!
撮影・執筆:大向しんじ
(c)Rrose Sélavy