【ものづくりの教科書】<衣装の創り方>では、楽劇座(がくげきざ)のテクノPOPミュージカル『ルーシー・フラワーズは風に乗り、まだ見ぬ世界の扉を開けた』(以下、ルーシー・フラワーズ)の創作過程を通して、衣装がどのようにして創られているのかの裏側をご紹介していきます。
記事を執筆するのは、アリスママ役を演じた大向しんじ。華やかな衣装が出来上がるまで、いったいどんな過程があったのでしょうか?
第3回は「衣装のデザイン」をお届けします。
第2回はこちら!【衣装の創り方/第2回】脱・日常のちょっとしたパーティー…普通って何?衣装の打ち合わせ<その2>
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再読 ~おはなしの構造を研究しよう!~
前回の打ち合わせ後、僕はすぐにあることを決めました。
まず「前回候補としたワンピの案はいったん白紙にすること」。そして「手持ちのお洋服に拘らず、一度フラットな意識でイメージを描いてみること」です。(あとついでに「いつか純さんが主宰したパーティに出席することがあったらあのワンピ着て参加すること」も)
まずは改めて台本を読み込むことにしました。演出である純さんは前回の打ち合わせにて『必要なのは映え・インパクト』と仰っていました。それがどういった種類のインパクトなのか、はっきりさせなければいけません。
アリスママのキャラクター性、同時に存在しうる人物とのバランスだけでなく、登場するシーンが台本全体でどんな役割を持つのかにも注意して読んでいきます。
特に初めて登場するシーン、観ているお客さまはどういう気持ちでその場面に至るのか? それを考えるためにお客様の視点で頭から読んでみます。
どんなふうに感情やテンションが変化してそのシーンに至るか。その前の場面では緊張しているのか油断しているのか。問題解決の途中でモヤモヤしているのか、トラブルが解決してスッキリしているのか。
それらを踏まえて「それならこの場面はどんな存在であるべきなのか」を考えます。
同時進行でこれからお稽古もスタートしていくところだったので、台本をこうやって見返すのはタイミング的にもちょうど良く、有益なことでした。
閑話 ~静と動~
ちょっと余談なのですが、こんな風に物語などの構造を客観的に見るときって皆さんどういう風に整理しますか?
物語の進行とか、時間刻みとかでしょうか。国語が得意な人なら「起承転結」や「序破急」とかもあると思います。それにプラスで僕がよくやるのは「静と動」です。
落ち着いている、物語が停滞する、絵的に動きが少ない、などの『静』パートと、テンションが高い、物語が動く、絵的な動きが激しい、などの『動』パートにザクザク分類していくんです。
考え方としてはたぶん「序破急」に近いと思うんですが、分類が2つで単純なので、最初に大枠を整理したい時とかに便利なのです。その上でもっと細かく見たり、「ここ『動』が連続するからポイントで『静』が大事になるんだな」みたいな考え方もできますしね。
個人的には、舞台だけでなく映画や小説やゲーム……あとはアニメのOPなんかを観ていても、印象的な作品はこの「静と動」がすごく上手いバランスでできてる物が多いと感じます。
だから演劇をやる人以外でも、推し作品を鑑賞する時なんかそうやって観るとちょっと楽しいですよ。某美少女戦士のオープニングとかほんとすごい。
象徴 ~モチーフ・裏モチーフを考えてみよう!~
話を戻しまして。台本を確認していくうちに、純さんが仰った「映え&インパクト」の意味がわかってきました。
アリスママのキャラクター性と、作品上そのキャラクターに必要なものが表れているビジュアルのイメージがだんだんまとまってきす。それと同時に、キャラクター性とは別のキーワード「裏モチーフ」的なものも浮かんで来るので、それもすかさずメモしておきます。
裏モチーフとはこれまた僕が時々用いる概念で、デザインとして第一に伝わる必要は無いけどエッセンス的に取り入れたいテーマやキーワードのようなものです。
例えば、以前ルーシー・フラワーズで演じた『桃太郎』の衣装をデザインした時も、メインのモチーフとした『和風』『桃色』『お金持ち』『アクセサリー過多』とは別に、『自縛』『パンク』『破壊者』という裏モチーフを設定していました。
抽象的なワードになる事が多いので、脚本や役柄へのアプローチに伴って出てきやすいのかもしれませんね。
よーし、アリスママもイメージが新鮮なうちにデザインを描き起こしちゃいましょう!
図案 ~デザイン画を描こう!~
こちらが最初に描いたアリスママのデザイン画です。
付箋かよ!
すみません、はじめにまとまってきたのが電車の中で、一番はじめに描いたものがこれだったんです……。気を取り直して、後からノートに改めて描き起こしたのがこちらです。
これでデザインの指針ができました。え? 「デザインができたのは良いけど、結局どうやってこれを用意するのか」って?
やだなぁ、決まってるじゃないですか! デザインの隅に描かれた裏テーマの所にもあるでしょう?
パンが無いならケーキを焼けばいい。衣装が無いなら作ればいいんです! (アントワネットはそんなこと言わない)
というわけで、いよいよ制作編に突入します。次回もどうぞご期待ください!
執筆:大向しんじ
(c)Rrose Sélavy