【ものづくりの教科書】<衣装の創り方>では、楽劇座(がくげきざ)のテクノPOPミュージカル『ルーシー・フラワーズは風に乗り、まだ見ぬ世界の扉を開けた』(以下、ルーシー・フラワーズ)の創作過程を通して、衣装がどのようにして創られているのかの裏側をご紹介していきます。
記事を執筆するのは、アリスママ役を演じた大向しんじ。華やかな衣装が出来上がるまで、いったいどんな過程があったのでしょうか?
第4回は「ベースドレス編」をお届けします。
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【衣装の創り方/第3回】「パンが無いなら●●ればいい」?裏モチーフって?衣装のデザイン
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探索 ~素材を探すよ~
さて前回アントワネットよろしく宣言したとおり、今回からいよいよ衣装の制作に着手していきます。まずは基本のドレス部分です。
一から作ることも考えましたが、お稽古もスタートしているのでここはできる限りスピーディーに進めたいところ。そこでドレスのベースは既製品の改造を基本方針とすることにしました。
素材として使えそうなアイテムを探すわけですが、こういう時は素材として売られている物だけでなく一見なんの関係もない商品や道行く人の服装など、あらゆる物を「使えるもの無いかなー」というハイエナ目線で見ています。
ほら、100円ショップとかによく「ハンドメイドコーナー」とかあるじゃないですか。正直、声を大にして言いたい。「100円ショップなんて店舗全部がハンドメイドコーナーだよ!」と。この意見ってわりとあるあるだと思うんですが、僕だけでしょうか……?
「お前の言うことよくわかんねーよ」という人は、とにかくいろんなこと気にしてるんだなーくらいに思っておいて下さい。そんな不器用な生き物もいるんです。
100円ショップや古着屋さんなども頼りになりますが、やはり今の時代はネットオークションやフリマアプリが便利で有難い存在です。
こんな便利な物があるなんて……21世紀まで生きててよかった! 令和生まれの若者にはわからないでしょうが、世紀末を生きぬいた人間にとって21世紀はそれだけで未来ワードなのです。
令和生まれの若者(記事公開時点で最年長3歳)が果たしてこれを読んでいるかはさておき、今回はフリマアプリで運よく巡り会えたこちらを使用することにしました。
社交ダンス用のトップスで、ストレッチ性も発色も抜群。未使用で生地の傷みは無いけれど長期のハンガー保管で襟ぐりのゴムが伸びきっており、「お直しできる人向け」としてかなりのお値打ち価格で出品されていました。
改造素材としては理想的です! ゴムのお直しは比較簡単にできそうですし、ウエストは手持ちのコルセットを締める予定だからトップスとボトムスがセパレートでも問題もありません。どこかで廃棄されていたかもしれないアイテムを有効活用させてもらえるという環境に優しい点も嬉しいですね。
改造 ~パーツを追加するよ~
さて、現品が届いたら改めてチェック。デザイン画を参考に改造プランを立てます。
主に手を入れるのは身頃(胴体部分)と袖の部分です。まず身頃は「フロントがはち切れてバラが溢れ出したイメージ」にしたいので、後付けの前身頃を作って取り付けます。
もともとの身頃のパーツと長さを合わせてより立体的になるように、またコルセットと合わせたときのバランスも見ながらパーツを考えます。
ちなみに追加部分の生地の色は水色を中心に使うことにしました。地色の濃いピンクに合う色で、かつアリスらしい雰囲気が出るからです。
そこで、追加したパーツの隙間から下の生地のピンクが覗いて目立たないように、重なる部分を布用の塗料でブルーに塗ります。余談ですが、実はアリスママの前身ともいえるケンちゃんの衣装のストライプ部分も同じ塗料で塗っています。
ちなみに使ったのはペベオ・セタカラーという塗料。濃い色の上に塗っても発色しやすく、素材によってはお洗濯にも強いのでよくお世話になってます。(素材との相性によるのでご使用検討の際にはよく確かめて下さいね! )
続いて、袖部分をパフスリーブ風に改造します。袖パーツを作って取り付けることになりますが、せっかくフリルいっぱいのお袖が元々ついているので、それを生かしちゃいましょう。
袖パーツを作って取り付ける際、上側(肩の方)だけ縫い付けて、下側(肘の方)は固定せずゴムを通してギャザーを寄せるだけにすれば、作業工程を大幅に短縮しつつ元の袖についているフリルを生かすことができます。
伸縮素材の共布フリルをたくさんつけるとなるとそれだけ工程も必要なので、本当に素材との巡り合わせに感謝です!
再製 ~レディメイド・カスタムの選択肢~
ドレスのベースとなるトップス部分がひとまずできあがりました! これからさらに胸のバラや、バランスに応じてその他装飾を加えることになると思いますが、身頃と袖を改造し、コルセットを重ねただけでも印象はだいぶ変わりましたね!
ボトムスはちょうどこれに合う水色のフレアスカートを持っているのでそれを合わせることにして、これでベースドレスはほぼ完成となります。
同じものを一から作っていたら絶対にもっと大変でしたが、今回は既製のアイテムを活用することで作業がぐっと短縮できました。
衣装を一から制作する場合、よりイメージ通りの物ができるというメリットがあります。が、時間も予算も必要ですし、作業内容に応じた技術も必要になります。
『既成品』のことをオーダーメイドやカスタムメイドに対して『レディメイド』と言ったりするのですが、この『レディメイドを改造する』という選択肢があると衣装を作るハードルはぐっと下がります!
出来ることが増えるとものづくりがどんどん楽しくなるので、「なかなかイメージ通りの衣装が見つからない」なんて時はぜひレディメイドのカスタムを考えてみて下さいね!
さて、当のアリスママの衣装はまだまだ完成しておりません。次回に続きます!
第4回をCHECK
【衣装の創り方/第5回】衣装も複数の役を経験?・続ベースドレス編
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