【ものづくりの教科書】<衣装の創り方>では、楽劇座(がくげきざ)のテクノPOPミュージカル『ルーシー・フラワーズは風に乗り、まだ見ぬ世界の扉を開けた』(以下、ルーシー・フラワーズ)の創作過程を通して、衣装がどのようにして創られているのかの裏側をご紹介していきます。
記事を執筆するのは、アリスママ役を演じたシンディこと大向しんじ。華やかな衣装が出来上がるまで、いったいどんな過程があったのでしょうか?
第7回は「デコレーション前編」をお届けします。
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【衣装の創り方/第6回】舞台衣装でアクセサリーどう使う?・装飾小物編
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手入 ~見切り発車のその前に~
さて、ついにここまで来ました。いよいよアリスママの衣装で最も目立つ、色とりどりのバラの装飾を作っていきます! レッツ・デコレーション!
アリスママの衣装は頭や胸元からカラフルなバラがいくつも咲き乱れています。(僕は勝手に「溢れ出すピュアなハートの象徴」と考えています) 全体的にハデなこの衣装の中でも特に目を引く印象的な部分です。
突然ですが、このお花をつけるにあたって最も頭を悩ませたのはどんな事だと思いますか?
激しい動きにも耐える取り付け方法? 様々な色を使った配色バランス? それともたくさんのお花の入手方法でしょうか?
正解は……。
お手入れの仕方です!
舞台では沢山動いて汗をかきます。(たまに全然汗かかない人もいますが、僕からすれば別世界の話です)さらに複数回公演があることが多いです。また、公演が1回の場合でも再演する可能性だってあります。つまり身に着けるものである以上、どうしてもクリーニングなどのケアが必要になるわけです。
オリジナルでより理想の衣装を作る場合……。そしてそれが普通のお洋服には無い装飾や構造の場合……。具体的にはそのままでお洗濯するのが難しいデザインの場合……。もっと具体的に言うとすなわちアリスママの衣装の場合には、「メンテナンスはどうやって行うのか? 」も作る時にあわせて考えておく必要があるのです!
接着 ~熱くてとろけて頼れるあいつ~
……と、いうわけで。今回のバラに関して僕が取った手法はこちら。
①薔薇がつく部分よりちょっと大きめにレース生地を切り出して、②そこにバラを接着し、③レース生地はドレスに縫い付ける、というやり方です。縫い付ける時に、荒めに縫ったり安全ピンを使ったりしておけば、簡単に装飾の部分を取り外してお洗濯ができるのです!
接着はグルーガンを使いました。
個人的には強度を最優先するなら糸で縫い付けるのが一番取れにくいと思うのですが(使い方や素材によると思います、あくまでも今の場合)、グルーガンだと花の向きを根元から固定できるのです。(糸での縫い付けだと動いているうちにお花が下を向いてしまうことがある)
また、接着剤と違って一度つけた後でも熱を加えてグルーを溶かせば調整や付け直しが可能です。
そして縫い付け・接着剤と比べて圧倒的にスピーディ。限られた時間の中で作業を進めるうえで非常にありがたい特性です。
そのため接着はグルーで行い、出来上がってから強度が不安だったら適宜縫い付けで補強、という方針で作業を進めました。結果的にグルーだけで問題なしでした! 高温グルーガンさまさまです。
頭飾 ~バラのはえるところ~
またアリスママは頭からもバラが生えているので、頭飾り用のバラも同時に配分を考えて進めます。
ちなみに取り付けはコームの軸にワイヤーを巻き付けて、その先にバラを接着しています。針金状のワイヤーを使うことでお花の向きや高さを調整することができます。
ちなみに上画像のトランプ、最初は一緒に頭に取り付けるつもりでコームに取り付けていたのですが実際頭に付けたらなんだかとってもマヌケだったので、本番では胸元に移しました。胸元の装飾に奥行きが出たのと、アシンメトリーになっていい意味でゴチャゴチャしたので良かったと思います。
「トランプ以外の部分は果たしてマヌケじゃないのか」という謎への答えは、きっとみなさんの心の中に……(美談)。
さ~て、メンテナンス方法も取り付けも目処が立ちました! 勢いがノッてきたところでこのまま……次回に続きます!
次回、アリスママの衣装ついに完成! ご期待ください!
執筆:大向しんじ
(c)Rrose Sélavy