こんにちは、シンディこと大向しんじです。ここ『演劇小道具工房』ではお芝居で使える小道具のつくり方や、過去に作った小道具の紹介、そのほか小道具制作についての交々を解説します。
第14回のテーマは ペンチ、プライヤーなど「挟む系工具の使い分け」です。
挟む系工具って?
挟む系の工具ってありますよね。ペンチとかヤットコとか呼ばれます。てこの原理を利用して、手で握るより安定した強い力で物を挟むことが出来ます。一般的には歯医者さんが歯を抜くときに使うイメージですが(僕はそうです)、小道具づくりにも役立つ道具です。
でもいざ使おうと思っても「使い分けがよく分からないから、とりあえず劇団の道具箱に入ってる物から適当に使おう 」「いろいろあるみたいだけど同じじゃないの? 違う道具なの?」 なんて思うことありませんか?
目的に合わせた道具選びができれば作業効率も上がりますし、道具もそれだけ長持ちします。というわけで、今回はそれらの使い分けをご紹介しましょう!
まずは名前と意味を確認しよう
使い分けがあやふやになりやすい理由の一つに、名前がわかりにくい点があります。まずはそれぞれの名称ごとに道具の説明をしましょう
【分類A】
・ペンチ…挟む工具中でも切断の機能を備えている物。
・プライヤー…挟む工具全般。
・ヤットコ…挟む系工具の中で切断機能の無い物。
もしくは
【分類B】
・ペンチ…挟む工具中でも切断の機能を備えている物。
・プライヤー…挟む系工具の中で切断機能の無い物。
・ヤットコ…挟む工具全般。
もしくは
【分類C】
・ペンチ…挟む部分の断面に凸凹がある物。
・プライヤー…挟む部分の断面が平らな物。
もしくは
【分類D】
・ペンチ…固定・保持が目的の物。
・プライヤー…挟んで操作することが目的の物。
もしくは
…………。
いい加減にしろ。
そう。名称が複数あるだけでなく、複数ある名称の定義が界隈によってもバラバラなのが分かりにくい原因なんです。言葉として一番正確……というか、辞書的な意味に近いのは【分類A】です。
ただ呼び方がバラバラになってしまうのも納得できる側面もあります。というのも、一番正確な【分類A】ってあまり実用的ではないんです。各分類の中から更に目的別に機能が分かれるので、たとえば「一番強い力で挟める工具」が欲しいときに「○○取って」と指しにくいのです。
それに加えて「ペンチ=和製英語」「プライヤー=英語」「やっとこ=日本語」と言語がバラバラなのもあり、言葉同士の関係性がわかりにくいのも要因です。
ですから木工、模型製作、アクセサリ制作など、界隈ごとに技術を伝えるうちに定義が揺らぐのはある意味仕方が無いと言えます。
ちなみに以下の道具は言葉の揺れがほとんどありません。
・ニッパー…挟む工具の中で、切断機能のみの物。
・鉗子…ハサミに似た形で、物を掴んだり引っ張ったりするのに使う物。
やっぱり個性が強いとブレないのは人間も道具も同じなんですねぇ。
とはいえ、分類ができないと解説をするにも不便なので、ここでは小道具部的に
・オールマイティに対応できる道具
・ガッチリ挟む道具
・挟んで操作する道具
・その他
に分けて解説したいと思います。
オールマイティに対応できる道具
オールマイティに対応できる挟む系工具といえばラジオペンチです。大きさは15cm程度、先端が細くなっていて、挟む面には溝が入っています。くわえ部の根元には切断用の刃がついています。
コンパクトなサイズ感ながら「強い力で挟む」「細くつまんで操作する」「切断する」といった3つの機能があります。普段工具を使わない人や、これから調達するという人で「対応の幅が広い物を持っておきたい」という人にもお勧めです。
ワイヤーをきつく巻き付ける、金属を曲げる、針金の先を危なくないように丸める、ネジを回す、釘を引き抜く……などなど様々な面で活躍する万能選手です。
100均などでもお手頃に流通しているので、1つあるだけで助かる、2つあると両手で使える、3つ以上あれば分担できる……と数が増えがちです(僕の場合はそう)。
ガッチリ挟む道具
先が平らでくわえる部分の広いペンチは、強い力でガッチリ挟むのに適しています。全体のサイズが大きかったり挟む部分の面積が広いとそれだけ強い力がかけられます。
「ラジオペンチの挟みパワー上位」と考えると用途が見えてきやすいと思います。細かい作業には向きませんが、針金や金属板の曲げ、ボルト回し、接着剤の圧着、その他ガッチリ固定したい作業に使えます。
ちなみに冒頭の分類Aでは「ペンチ=切断機能があるもの」でしたが、言い換えればそれだけ硬い金属が使われているので、「切断機能無くていいから強い力でホールドする工具が欲しい」と思って探すと結局切断刃がついていたりします。
挟んで操作する道具
挟んだ先で何か作業することを目的とした場合、その目的に特化するほど道具も多様化します。あれもこれも揃えるというよりは、目的に合わせて選びましょう。
細かい作業に適した先の細いプライヤー(ピンセットプライヤーと呼ばれることが多いです)は工具売り場にはあまり置いていません。手芸やハンドメイドのコーナー、模型店、画材店のエッチングコーナーなどにあることが多いです。
細さひとつとってもたくさん種類がありますが、演劇小道具の制作であれば、身近な手芸店で入手できるアクセサリー用の物で十分だと思います。細いプライヤーで無理に太いサイズの物を操作すると上手くいかないだけでなく道具にダメージもあるので、ラジオペンチなども含めて適したサイズを選んで下さいね。
また、ただ挟むだけでなく特定の機能に特化した物もあります。
手の握りに合わせて開閉するバネ付きプライヤー、部品を傷つけないようにナイロン製のクッションがついているナイロン付きプライヤー、挟む部分が丸くなっていてワイヤーを丸めるのに適したコーンプライヤー(丸ヤットコ)やワイヤーループプライヤー……などなど。
たまに売り場を物色していると「こんな便利な物があったのか! 」という発見があったりて楽しいですよ。
ちなみに細かい作業をするプライヤーで個人的にオススメなのは鉗子(かんし)です。
強い力はかけられませんが、細かい操作性がとても高く、ピンセットとプライヤーのハイブリッドツールとして使える有能さんです。挟んだ状態で固定もできるのでクリップのように使えるのも便利。
手のひらサイズの小道具制作や手芸系の作業が多い人には特におすすめです。
切断する道具
切断機能だけがあるツールはニッパーと呼ばれます。
先述の通りペンチにも切断機能はあるので、小道具作りで使うような針金やバインド線をカットするくらいならそちらで十分対応可能だと思います。あえてニッパーを使うのは、先端部分でもカットできるツールが欲しい場合や、特定の機能に特化したニッパーの場合です。
たとえばより太い針金や配線などをカットする強力ニッパー、逆に細いワイヤーをカットするアクセサリー用のニッパー、切断面がキレイに切れるニッパー、さらにその中でも針金用やプラスチック用……と、ニッパーも何気に種類が豊富です。目的にあった物を選んで下さいね。
さいごに
余談ですが「専門メーカーのじゃない100均の物でもちゃんと使える?」と聞かれたことがあります。もちろん用途によりますが、個人的にはイエスです。
ペンチやラジオペンチなど求める機能がシンプルな物は僕も100均の物を使っています。僕が持ってる中には10年以上使ってる100均ラジオペンチもあるので、安いから壊れやすいということも無さそうです。
ただ工具メーカーのツールはシンプルな機能でも「グリップが握りやすい」「切断の切れ味がいい」と感じる物もありますし、特定機能に特化した物も多いです。お値段に関わらない相性もありますし、入手も含めて使いやすい物を見つけて下さいね。
挟む系のツール選びはお料理で包丁を選ぶようなものです。
万能包丁があればとりあえず基本のお料理はできるし、それ以外の様々な包丁はそれぞれ素材や用途に適した性能を備えています。米派の人がパン切り包丁を買う必要は無いけれど、リンゴをよく食べるなら万能包丁よりも果物ナイフの方が剥きやすいですよね。
目的に合わせて道具を選べばそれだけ作品作りの質も効率もアップします。あなたがいい道具と巡り会えますように!
関連記事
【演劇小道具工房/第13回】 小道具部ありがちな失敗エピソード② ~乾燥~|対策方法もご紹介!
続きを見る
執筆:大向しんじ
(c)Rrose Sélavy