ものづくりの教科書 演劇小道具工房

【演劇小道具工房/第3回】コスプレカチューシャやヘッドドレスがダンスOKの固定力に…!「ヘッドアイテム」のつけ方

こんにちは、シンディこと大向しんじです。ここ『演劇小道具工房』ではお芝居で使える小道具のつくり方や、これまでに作ったアイテムたちなんかをご紹介します。

第3回は、イベントごとにはつきものの「ヘッドアイテムのつけかた」をお届け。舞台上の激しい動きでも外れない装着テクニックをご紹介です!

ヘッドアイテムは外れやすい?

ハロウィンやクリスマスの時期にはもはや定番の、コスプレカチューシャ。「せっかく買ったし、また何かの機会に取っておこう♪ 」という人も多いのではないでしょうか。

その「何かの機会」の中「衣装」がかなりの割合を占める悲しい生き物、それが演劇人です。主語が大きかったらすみません。(でも個人的に、めいる先生のコミック「舞台女優狂騒曲」第4話のタツコちゃんの葛藤には共感を禁じ得ないのです……! )

CHECK

【漫画】舞台女優狂騒曲 第4話「断捨離への憧れ⭐︎」/めいる

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でもいざ使えそうな機会にお稽古で試着してみると、こういうアイテムって舞台だと意外とズレるんですよね。普段使い(?)では問題なかったのに、舞台での大きい動きになると急に不安定に感じません?

ちょっとした首の動きでずれてしまったり、最悪の場合ダンスやアクションなどの激しい動きで外れて飛んで行ってしまうなんてことも……。そうなると観ているお客さんはどうしても一瞬「あっ! とれた……! 」と意識がそっちに逸れてしまいます。

待って……! 飛んで行かないで、私のヘッドアイテムたち……! うぅ、やっぱり舞台用じゃない物を使うのは無理なのかしら……?

No! お待ち下さいレディ! どうか涙を拭いて、今回ご紹介する方法をお試し下さい!

ちょっとの加工でお手持ちのヘッドアイテムがばっちり舞台に対応してくれます! ダンスにアクション、スラップスティックまで、激しい動きもOKです。

もちろん既製品の改造だけでなく「オリジナルのヘッドアイテムをつけたい! 」という場合にも適用できますのでぜひご参考下さい!

使う物はコームカチューシャ

使用する物はこちらのコームカチューシャです。装着するヘッドアイテムをこちらに縫い付けるだけ! とっても簡単です。

コームのワイヤーに、まつり縫いで取り付けます。実際に頭につけた時の位置や向きを確認してから取り付けましょう。

わかりやすく赤い糸で縫っています。実際は目立たない色を使って下さいね。

カチューシャ型アイテムの場合

もともとカチューシャ型になっているアイテムの場合は、カチューシャ部分同士を合わせればいいので特に簡単です。また、時間がない時は縫い付けではなくカチューシャ同士を細めのワイヤーでグルグル巻いて束ねてもOKです。作業としては縫うよりも簡単だし、短時間でできます。

ただしカチューシャの素材や色によっては加工が目立つ場合もあるのでご注意を。その場合はやはりまつり縫いです。

ワイヤーを巻き付けるだけならさらにカンタンです。

独立アイテムの場合

元がカチューシャになっていない独立した動物耳やツノ、ミニハットやオブジェなどといったアイテムの場合でも「位置や向きの確認」→「まつり縫いやワイヤー巻き付けで固定」という基本の流れは同じです。単品アイテムの場合は位置や向きがズレやすいので気を付けて下さいね。

ヘッドトルソーがあると調整がしやすいですよ。ただし独立アイテムの場合、頭のサイズの差が出やすいので、トルソーの頭のサイズに注意して下さい。うちのヘッドトルソーさんはだいぶ小顔なので、いつも布を巻いたりウィッグを被せてサイズアップしてます。

独立アイテムをつける時は、鏡やヘッドトルソーを使って慎重に位置取りをしましょう。

【補足】取りつけの際のポイント

また、取りつけの際には以下のポイントを意識すると安定感が増します。

《ポイント1… 2ライン以上で留めること》

こちらはアイテムとコームの固定に関するポイントです。

縫いつけによる固定は基本的に「線」です。(「点」の場合もありますが、点が2つ以上できたら固定される部分は「線」状になります)このとき押さえる「線」が1本だと、別角度からの力に対してパタパタ動いてしまいます。

固定する線が2本以上になるように「2つのラインで留める」ことを意識すると、複数方向からの力に強くなります。

《ポイント2…コームの歯先への縫い付けは最小限にしておくこと》

さっきのポイントは装飾とコームを安定させるポイントでしたが、今度はコームと頭の固定に関わるポイントです。

コームって【 ヨ 】 ←こんな形をしていますよね。この左側の部分が髪の毛に入り込むことで固定されるわけです。この時たとえば3つの歯の先端を全て縫い付けてしまうと、髪の毛の入り込む隙間が糸で塞がれてしまうのです。

とはいえ、先ほどの「2ライン留め」も意識すると歯の先の部分で固定せざるを得ない面もあります。

なので基本は前者の「2ライン留め」を優先しつつ、あくまで「できるだけ」歯の先端は縫わない(縫っても最小限にする)という優先度が良いと思います。

プラスチック素材など糸もワイヤーも使いにくい装飾のときには、グルーでの接着も選択肢になります。その時にもこの点は変わらずポイントになるので意識してみて下さいね。

装着しよう!

さて、出来上がったら装着してみましょう!

まず一度髪の上から取り付けて、おおよその位置を確認します。コームの軸、カチューシャ部分がくる位置の見当をつけたらその部分の髪をかき分けましょう。

髪を分けたらその部分にコームを挿して装着して……

分けていた髪の毛を整えます。これで装着できました!

これだけでもだいぶ安定感が増しているはずですが、ダンスやアクションなど大きな動きのある場合はさらにコームの上からヘアピンで留めるとよりしっかりと固定されます。

髪の毛とコームを一緒に挟むようにしてピンを留めます。挟む部分の歯や軸に対して異なる角度でピンを入れるようにしましょう。

これも上記の「2ライン留め」と同じ理屈で、角度をつけることで「特定の方向(=ピンが抜ける方向)への力には弱くなる」事を減らすためです。

【補足】どうしてコームカチューシャがいいのか

と、ここまででだいたい説明終了ですが、補足として「どうしてコームカチューシャがいいのか」についてご説明します。

身もふたもなく言えば「コームとカチューシャ両方のいいとこ取りだから」です。

コームのいいところは、髪にぐぐっと入り込んでくれるので固定力が高いこと。

そしてカチューシャより幅があるので、縫い付けやピンなどでの補強がしやすいことです。幅がある=面積があるので「装飾とコーム」「コームと頭部」どちらにも『2ライン留め』戦法が使えます。

「じゃあ小さいコームとヘアピンだけの方が目立たないし自然でいいのでは?」と思われるかもしれませんが、そこでカチューシャのメリットです。カチューシャは下方向や左右へかかる力に対して強いんです。

こういったアイテムは思った以上に重さがあるので、つけた人の動きに合わせて様々な力がかかります。舞台上で身につける物にかかる力は主に慣性や遠心力や空気抵抗です。(あれ、遠心力は慣性の一種? ……大目に見て下さい)

もちろん動き次第なので様々な力がかかりますが、下にかかる力と左右にかかる力は特に多いです。カチューシャは頭頂部を通って左右の側頭部をホールドしているのでうってつけですし、コームの固定力も加わることによりしっかりと支えてくれるのです。

【補足】よくあるQ&A

Q:コームカチューシャにピン留めしてもやっぱりズレてしまいます……。

A:ピンを増やすのも手ですが追加の補強として。コームを刺すあたりの髪の内側を、ゴムで小さく縛っておきましょう。

こんな感じで毛束を作って、そこにコームを刺すことで固定を補強できます。

Q:ウィッグでも使えますか?

A:ウィッグにも使える方法です! ただしウィッグは人間の頭皮と毛の密度や生え方が違うので、物によってコームの入り込みが浅くなる場合があります(特に頭頂部)。

それがどの程度目立つか、隠す工夫ができるかは、そのウィッグの色や構造次第なので前もって確認するのが安全です。

Q:どうしてもコームやピンが目立ってしまうんだけど……

A:できるだけ細いワイヤー、狭い幅のコームカチューシャを使用してみて下さい。もしも明るい髪色に使用する場合にはマニキュアなどでピンやコームを塗装しておくのも良いと思います。

参考

【漫画】舞台女優狂騒曲 第2話「ウィッグが上手に被れません! 後編」/めいる

続きを見る

また、写真は動いている時よりも目立ちやすいので、たとえばパンフレットなどのビジュアル撮影時には一時的にカチューシャからアイテムを外し、ヘアピンなどで目立たないように留める、という手もあります。

Q:短髪なんですがこの方法使えますか?

A:ご懸念の通り、短髪の方はそのまま適用は難しいです。これ劇団など普段から見慣れているメンバーだったりすると、意外と意識の外にあってギリギリに気付くことも多いので気を付けて下さい(笑)

ヘアピンが止まる(もしくはコームが隠れる)程度の長さがあれば大丈夫なので、本番までに多少髪を伸ばせるならそれでOKです。

髪を伸ばすのが難しい場合には多少の工夫が必要です。たとえばカチューシャを装着した上から布を巻くことで固定するという方法があります。場合によっては衣装部さんに余っている端布がないか聞いてみましょう。ほかにもウィッグや帽子に取り付けるという方法もあります。作品の世界観や役柄、動きの激しさに応じて最適な方法を探してみて下さい!

Q:他に気を付けることはありますか?

A:使った後はヘアピンをコームから取り外しておきましょう。明日のマチネですぐ使えるようにと、本番の汗で濡れた状態でピンをコームに刺したまま放置すると、錆びます

あとワイヤレスマイクを頭部につける舞台の場合は、音響さんに「こういった感じの物が頭につきます」と事前に共有しておけるとスムーズかもしれません。少なくとも今まで知っている限りの音響さんは「問題ないです」と快く確認・対応して下さいました。

まとめ

・舞台でヘッドアイテムを装着するときにはコームカチューシャがおすすめ!

・基本は位置を合わせてまつり縫いで取り付け。場合によってはワイヤーやグルーでの固定も視野に。

・馴染むように髪を分けてから装着。適宜ヘアピンで補強すること!

・「アイテムとカチューシャ」「カチューシャと頭」どちらの固定も『2ライン留め』を意識!

以上です!

画像にあるようなアイテム以外にも、コサージュやミニハット、ロリィタのヘッドドレスなど、ヘッドアイテム全般に応用できます!

頭部にアクセントが付くとビジュアルとしても印象的で華やかになるので、ぜひあなたのパフォーマンスに役立てて下さいね!

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執筆:大向しんじ
(c)Rrose Sélavy

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