こんにちは、シンディこと大向しんじです。ここ『演劇小道具工房』ではお芝居で使える小道具のつくり方や、これまでに作ったアイテムたちなんかをご紹介します。
第9回はオンライン公演「ルーシーフラワーズ・フェスティバル」の本編で使用した 小道具「アリスママの辞書」の作り方を解説していきます。本の表紙やタイトルを加工して変えたい方、必見です!
アリスママの「辞書」
今回は僕が制作した小道具のご紹介です。ルーシーフェス配信公演「ルーシー・フラワーズは風に乗り、まだ見ぬ世界の扉を開けた 〜時代はもはや、医療崩壊ならぬ童話崩壊をも生み出すのだ!の巻〜」より、劇中、
ルー「(期待を)裏切らないわぁ~。オカマの辞書に“恥”って言葉ないでしょ?」
アリス「(傍らに置いてあった辞書を開いて)ない」
という会話の中で、アリスママが手に取る1冊の赤い本。それこそが今回ご紹介する「辞書」です!
意外な部分にも手が加えられています
赤いビニールコーティングの表紙で、見た目はいかにも辞書風です。が、背表紙にはかわいらしい丸目のフォントで「じしょ♡」と書いてあります。かわいい~!
シンプルなひらがな表記なので、遠目や画面越しに見ても「”じしょ”って書いてある……」と分かりやすいのがポイントです。
よく見ると表紙のタイトルも「OKAMA DICTIONNAIRE」……”オカマの辞書”になっています! こちらは遠目だとちょっとわかりにくいポイントですね。配信で気付いた方がもしいるとしたら、かなりの観察眼です。
ちなみにお客様から見えることはありませんが、劇中で開かれるちょうど中央あたりのページでは「恥」の単語が塗りつぶされています。この辞書には無い言葉なのです。
その正体は仏和辞書
実はこの辞書、もともと仏和辞書なんです!
元の表紙の上からアクリル絵の具を塗って、文字を消したり書き足したりしています。
ちなみに今回僕が使用したアクリル絵の具はリキテックスのソフトタイプ。水などで薄めず、原液を筆にとって使用しました。背表紙の一見すると無地の部分も、もともとは字が書いてあったんですよ。
絵の具を選ぶ時は
こんなふうに、既存の本の表紙を小道具としてアレンジしたい時はアクリル絵の具で上書きする方法があります。元の表紙の地の色に合わせて絵の具を選びましょう。目立たない試し塗りスポットも目星をつけておくとスムーズです。
気を付けるべき点として、アクリル絵の具には透明色・不透明色があります。使われている顔料によるものなので、同じシリーズ内でも混在している場合が多いです。パッケージやメーカーサイトで確認できますので購入前に参照しましょう。
こうして見ると透明色と不透明色の違いが分かりやすいのではないでしょうか。不透明色は地の色が濃くてもしっかりカバーできますね。
ちなみに「透明色=使えない」わけではありません。多少透けますが、地の色が薄めであれば重ね塗りで十分対応可能な場合もあります。地の色が濃い場合は一度近い色の不透明色で塗りつぶして、その上から塗り重ねるという手もあります。
ちなみに、アリスママの辞書でメインに使った「パーマネント アリザリン クリムゾン ヒュー」という色は透明色です。
不透明色は地の色をしっかりカバーできる分、わずかな色差も目立ちやすいです。地の色が透けやすい透明色は多少色差があっても境界が馴染みやすいというメリットもあります。
どちらもメリットデメリットありますので、使いたい色が見つかったら事前に特徴を確認しておきましょう。
リムーバーもあると便利! でも過信は禁物!
またアクリル絵の具にはリムーバーも存在します。これは乾いた後のアクリル絵の具を溶かして落とすことのできる薬品です。失敗が心配な時はリムーバーも用意しておくと良いですよ。
ただし、液体なので紙製の表紙の場合は多用すると紙にダメージがあること、表紙によっては元々の印刷も落としてしまう場合があることに注意しましょう。リムーバーとはいえ「完全に元の表紙に戻せるアイテム! 」というわけではないので気を付けましょう。
演劇小道具として意外と頻繁に登場する「本」。装丁にもこだわりたくなったらぜひこちらの方法を使ってみて下さいね!
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参考:リキテックス Liquitex
執筆:大向しんじ
(c)Rrose Sélavy