さて、今宵は江戸時代に呑まれていたという“美淋酎(みりんちゅう)”を愉しもうではないかという企て。
“文化を愉しむ(呑む)”を裏テーマというか“根っこに持つ”ところの我が“おうち酒場化(酒バカ)計画”としてはなかなか良い企画なのではないかと。
江戸時代のお酒!?
実のところ、編集部某女史からの「江戸時代のレシピで作ったお酒なんですって! なんだか面白そうですが・・・如何しましょう?」などという提案に、その尋常ではない目力と共に「これ絶対やりましょうよ!」というある種の“強制”にも似た絶妙なニュアンスを汲み取り「面白そうだね・・・」などと応えてしまった私・・・
とか言いつつも、実際のところ、“江戸時代の酒”という文言に興味をそそられたのも間違いなく、そんなこんなで今宵の酒は編集部に届いた“美淋酎”と相なった次第であります、ハイ。
ところで、これどうやって呑むの?
えー、なになに・・・「一番のお勧めは美淋酎を炭酸水で割り、生絞りのレモンを加えて飲むレシピです。」だそうな。
なるほど・・・。
ただ、ちょっぴり気になる文言も・・・「美淋酎の甘さが楽しめる商品となっております。」・・・そうか、“甘い”押しかあ・・・実は通常モードでの私の“甘い”の限界値は芋焼酎、ないしはウィスキーの甘味・・・(注)ちなみに甘酒と紹興酒は例外(いわばこれが特別モード)。
え〜、正直なところ、私には些か甘すぎました。あくまでも個人的な意見ではありますが、この甘さで晩酌はちと辛いかも。
ただね、これで飴なんか作った日にゃ“癖になるお味”として結構それなりに存在感を放つのではないかしら? などと思ったりして・・・まあ、こちらも個人的な感想、ないしは想像の域を出ませんが。
お味の方は?と申しますと、まさに甘口日本酒と焼酎のハーフといった趣で、よりどちら似というよりは、両者の個性が“甘さ”という鎧をまとい「よりパワーアップして戻ってきました! パパ、ママ、私を産んでくれてありがとう!」とでも言わんばかりの勢いで、それはまるで青春時代(無添加、天然素材100%)の特権、ないしは治外法権を行使した屈託の無い笑顔ないしはその生命力が醸し出すある種の破壊力を持ってして、先入観素材100%のルーティーン的人生、いわば定番とかして久しいカラー写真に敢えてのモノクロ写真の衝撃、いやその襲撃により閃光が走ったとでも形容するに相応しいお味。
別の例えを用いるならば、我々現代人の前に空から宇宙人が降りて来るのと、江戸時代の人間が突如現れるのでは、感覚レベルでどちらがより文化的誤差を生じるのか?といった問いの形で表現することも可能かも知れない。それは多分、“未来”の衝撃よりも“過去(自分が生まれる前)”の衝撃の方がより強く我が本質に迫って来る様に思われるのは私だけだろうか?
要するに、たかだか2~30年程度の酒呑みに過ぎないわたし如きに江戸の酒“美淋酎”を正確に味わう、すなわち江戸の舌を持って味わうことは誠に困難極めるという話であり、昨今、巷にあふれる添加物たっぷりのアルコール飲料(酒)よりも、ある意味、新しい体験だったという訳なのである。
すなわち、故きを温ね新しきを知った?
まあ、知ったかどうかはさておき、確かなのは“甘い”という点・・・まあ、これも日々の生活であまり肉体を使わなくなった現代人故の感覚やも知れないが。
でもね、ここで一考。
「そういえば、子供の頃、食事の時にコーラかなんか飲んでいたなあ」
そうだ、閃いた!
「甘いお酒以外呑めませ〜ん」などと言って憚らない、愛する?家族と“一緒に酒を愉しむ”という戦略、すなわち“おうち酒場化計画”という名のミッションを遂行する上で、ある意味、実に“もってこいの一品”だったりするのではないか? まあ、そんなふうに考えられたりもする訳で・・・この“家族を巻き込む”という酒バカにとってどうしてもクリアせねば(し続けなければ)ならない長期にわたる持続的な課題(時に忍耐を伴う)、もしかすると、この難関を突破する上での強力な兵器となるやも知れません。
いわば、戦術的酒兵器。
もちろん、こうした戦術は、簡易的に昨今、巷にあふれる激甘高アルコール缶チューハイでも可能かも知れません。ただね、やっぱり情緒ですよ情緒。
これからの季節にはちょうど良いかも。
甘いもの好きな家族には美淋酎、辛い酒を好む自分自身には辛口日本酒なんてね。で、お金に余裕があれば江戸切子の酒器なんか用意しちゃったりして。ついでに浴衣着て団扇を煽ぐなんてのもまた一興。花火なんかもいいねえ。
それにしてもこの酒、江戸時代にはどう言ったシチュエーションで呑まれていたのだろう? ちょっと興味が出てきました。これは是非、調べてみたいと思います。そして、私だけの“美味しい飲み方”を研究してみようかと・・・。
そろそろ夏の足音も聴こえて来ましたことですから、今年のバカンスは美淋酎で江戸時代の日本に時間旅行なんて如何?
米リキュール 美淋酎
今回ご紹介したお酒は九重味淋株式会社の「米リキュール 美淋酎」です。
現在は調味料として欠かせない“みりん”は、江戸時代には「女性や下戸の方が飲む甘いお酒」という位置づけでした。
江戸時代の百科事典「和漢三才図絵」にもその旨が記されており、当時は武士が清酒を、女性がそのお相手をするためにみりん(当時は「美淋酎」)を飲んでいたと言われています。
その「美淋酎」を現代に再現したのがこのお酒です。飲むだけで江戸時代に思いを馳せることができるかもしれません。
販売価格は2766円。お酒が苦手な方や女性の方でも楽みやすい、米本来の甘みを感じるお酒です。
関口 純/音楽家&劇作・演出家
大衆社会という名の戦場で、その“住処”を鉄壁の要塞と化すことに情熱を注ぎ、かつ、“一人呑み”という名の作戦会議において“食”という名の世界地図を広げることを以ってして戦士の休息とする文士、またある時はミューズの女神に色目をつかいながらもバッカスの宮殿で音楽を奏でる宮廷楽士を下野して地上に舞い降りた吟遊詩人。
芸術を生業とする一家に生まれ、幼少よりピアノ、作曲、演出などを学ぶ。その後、日本テレビ音楽(株)顧問(サウンドプロデューサー&事業開発アドヴァイザー兼任)、楽劇座芸術監督、法政大学地域創造システム研究所特任研究員など。音楽から演劇、果ては研究活動に至るまで「止まれば死ぬ」を人生のコンセプトに“常に”吟遊詩人的人生の真っ最中。
※本文中の価格は希望小売価格・税込みです。
前の記事
“たかが海苔”と侮るなかれ、”されど海苔”【おうち酒場化(酒バカ)計画#8】
続きを見る
参考リンク:九重味淋公式オンラインショップ
執筆・撮影:関口純
(c)Rrose Sélavy