作曲の仕事が一段落、マスター音源の納品も無事に済ませたところで、連日のスタジオ作業で鈍った身体を蘇らせるべく街に繰り出す。
久しぶりの渋谷はいつしか大人の街になっていた・・・まあ、よく言えば。
細野さんがPARCOのイメージボーイ? ってな趣きで入り口に鎮座しておられるではないか! まさに字の如く“細野晴臣だらけ”の巨大ポスター。
年末の東京散歩
“YMOのヨッちゃん”・・・真偽のほどは定かではないが、ご本人が自虐ネタ?としてそう語ったと何処かで読んだ覚えがある。確かに、その時代の空気感を幾らか知る者としては”言い得て妙“である・・・はいつしか、ある意味、トシちゃんやマッチをも凌ぐ ”半世紀遅れの白馬の王子様“ と化している。誰が”白馬の王子様“と思っているのか?はともかく、少なくとも僕にとっては憧れの”70代の在り方“を示してくれているように思われる。細野氏は僕の両親とほぼ同世代。とは言っても、なんだかんだで永遠の現役。そう、永遠の現役・・・なんという甘美な響き! 音楽に限らず、クリエイティブに生き、かっこよく歳を重ねたい者にとっての”メタ父親(像)“と言ってよかろう。そうしたある種の象徴としての細野氏の存在は、年齢を重ねることに対する一つの指針として、僕たちに充分過ぎるまでの意味(ヒント)を与えてくれているように思えてならない。見つめられる背中を持つ父親というのは実にかっこいい。
教授やユキヒロも素敵だが、結局のところ、YMOは細野に始まり細野に終わるのではないだろうか? 大人になった”一いちYMOチルドレン“の感想。
ちなみに似顔絵付きのキャラクターグッズも飛ぶように売れている。今回のイメージキャラクター化は、どうやら細野氏のデビュー55周年とPARCOの55周年をかけたイベントのようだが、そのイベントスペースの盛況ぶりは、一時期、新大久保に乱立した韓流アイドルグッズ専門店の如く。
こうして渋谷は、僕たちNEWジジイ、NEWババアの街と化していくのだ・・・これでいいのだ!
すでにPARCO劇場には武満徹もいないし、安倍公房もいない。背後に佇む堤清二もいない。だが、入り口にはサイケな意匠を施された細野晴臣がいる。
その後、我がホームタウン“新宿”へ。生まれも育ちも新宿、考えてみれば仕事場も新宿、市ヶ谷といった具合に新宿&その周辺ばかり。それはまるで何処ぞの回転寿司チェーンの“蟹フェア”や“まぐろフェア”の如く。まさに“新宿”づくし。まあ、そんな僕だが、今まであまり縁のなかったのがLUMINEだ。まあ、女子的色合いが強い空間ゆえ、致し方ないところもあるのだが、よしもとの劇場に1~2度、かつて店舗のあったヴィレバンや青山ブックセンターに数度足を運んだくらいだろうか? あとは・・・申し訳ないが、私の中では正直、“南口から東口への通り道”と化していた。
今回、そんなLUMINEさんの屋上でクリスマスイベントが開催されるということで、ちょっとしたご縁もあり、早速、初日にお伺いする運びとなった。
まず気に入ったのが、飲食で“おでん”を売っているところ(笑)クリスマスムードの屋上(すなわち屋外)でおでん! 日本における“洋”とはこういったものです。 これぞニッポンの王道!伝家の宝刀“和洋折衷”でござい!
それで良いのですよ。決して移民が悪いとは申しませんが、我々はもっと日本人のDNAを大空のもと高らかに謳歌すべきなのです! 移民制度自体にも問題はあるかも知れないが、“グローバル化”などと言いつつも、実のところは全世界から見ればほんの一握りの民族の価値観に過ぎない“くだらぬスローガン”の前で日本人が妙に卑屈になっていることの方が実はもっと重大な問題なのだ!
だから、師走も差し迫る極寒の屋上で“おでん”を食え!
と、ちょっと北方謙三もびっくりな感じで吠えてみたが、実のところ、今回、僕はおでんを食べていない。それどころか正直なところ何も口にしていない。漢おとこは黙って目で楽しんだのだ! ということで、一つ宜しく!
こけしのお猪口×日本酒
まあ、そんなこんなはさておき、美女と出会ってしまったのである!まさに一目惚れ。
そう、麗しの君は「Floyd(フロイド)」さんの“こけしお猪口”。お猪口にこけしの顔が書いてある代物。以前、何処かのWEB記事で見覚えのあるそのお姿。その時にも興味を持った記憶が・・・。まあ、そんなことはすっかり忘れていた今頃になってこんなところで再開するとは・・・それも通常価格1650円のところが今回はアウトレット価格ということで、な、なんと500円! 販売のお姉さんに「どの部分がアウトレットなんですか?」と尋ねてみたところ、わずかながら印刷のズレ等があると言うではないか。ところがですよ、正直なところほとんど気になりません。と言うか、ほぼ見えないレベルです。「これでアウトレットか・・・フロイドさんは常日頃から、さぞかし丁寧なお仕事をされているのだろうなあ」などとちょっとした感動を覚えてみたりなんかして。某高級デパートに店を構える有名ブランドですら明らかな商品の痛みにまで「味ですから」などと言い切ってしまう昨今、誠に日本的な細やかな配慮をされていると感じてなんだか嬉しくなってしまったりして。という訳で2つほど購入。まんまと美人さん2名をお持ち帰りしましたとさ。
帰り際、伊勢丹地下の日本酒販売コーナーに立ち寄り「さてさて、この美人さん(お猪口)に合わせるラベルの良さげな酒でもないものか?」などと物色していたところ「何かお探しですか?」と中学の英語の教科書(「may I help you?」)の如くお店のお姉さんに声をかけられ、「安くてラベルが映えて、もちろんお味もよろしい酒はないものかしら?」などと無理難題を押し付けてみたところ「ありますよ!」と即答。「あ、あるの???」と心の中である種の拍子抜けと言うか、呆気にとられたと言おうか、導かれるがままに手に取ったのが「櫻正宗」なる酒。よく見たらこのお姉さん、伊勢丹の販売員さんではなく櫻正宗からいらした販売員の方でした。一瞬「そうか、こりゃまんまとやられたな」と思ったりなんかもしたものの、確かにラベルはこけしのお猪口にちょうど良い感じのレトロデザイン。お姉さん曰く、お味の方は「昔のお酒みたいなお味です」だそうな。まあ幾分、お姉さんの気立の良さによるところも無きにしもあらずといった感はあるものの、とりあえず、「今宵の晩酌は素直にこの酒に決めるとしよう」と相なった訳である。
それにしても、この“こけしの顔を持つお猪口(私は”美人さん“と呼ぶ)”、いいねえ~。全くもって惚れ惚れしますなあ。クリスマスに和装の日本美人と出会うなんてなかなか乙なものだ。そう、趣きなのですよ全ては。
“趣き”といえば、寒空の“おでん”にはビールも良いけど、やっぱり熱燗じゃねえ?などと思ってしまうのは私が酒呑みゆえだろうか?それとも昭和の幻影?
ソーセージにホットワインは良いけど、やはり“おでん”には熱燗じゃない?
みんな、もっと日本人であることを謳歌しようではないか! あんなに左寄りだった青年がこんなことを言うようになるなんて・・・我ながら耳を疑う。
それにしても一際暗闇がのしかかる中、ライダースジャケットでシルバーアクセサリーを販売していたお姉さんと、その隣で色とりどりの革小物を販売していたお兄さんにはエールを送りたい!
夏のビアガーデンこそ定番だが、真冬の屋上にもまだまだ未開の領域(可能性)が残されている!そう確信するに至った2024年、師走の夕暮れ。いくつかアイディアも浮かんだから機会があったら試してみようと思う。
昔も今も、屋上は商業施設にとっての“ある種の醍醐味”と言って良かろう。
眠れる獅子の如く、眠れる昭和は確かにまだそこに在る。
かわいいこけしグラス
今回お酒を飲むのに使用したのは「Floyd」の「Kokeshi Glass」。東北地方の郷土玩具こけしに見立てたグラスは、日本酒はもちろんデザートや前菜などを入れる小鉢、インテリアとしても活躍しそう。
箱入りのセット商品も販売されており、ギフトにもおすすめです。
関口 純/音楽家&劇作・演出家
大衆社会という名の戦場で、その“住処”を鉄壁の要塞と化すことに情熱を注ぎ、かつ、“一人呑み”という名の作戦会議において“食”という名の世界地図を広げることを以ってして戦士の休息とする文士、またある時はミューズの女神に色目をつかいながらもバッカスの宮殿で音楽を奏でる宮廷楽士を下野して地上に舞い降りた吟遊詩人。
芸術を生業とする一家に生まれ、幼少よりピアノ、作曲、演出などを学ぶ。その後、日本テレビ音楽(株)顧問(サウンドプロデューサー&事業開発アドヴァイザー兼任)、楽劇座芸術監督、法政大学地域創造システム研究所特任研究員など。音楽から演劇、果ては研究活動に至るまで「止まれば死ぬ」を人生のコンセプトに“常に”吟遊詩人的人生の真っ最中。
※本文中の価格は編集部調べです。
※お酒は20歳になってから。適量を楽しみましょう。
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